REVIEW · 楽曲・アルバム
かのうみゆ「二人の世界」——終わった恋に残る温度

別れた相手を忘れられないのは、一緒にいた時間のすべてが不幸だったわけではないからだ。かのうみゆの「二人の世界」は、その扱いにくい気持ちを捉える。関係が終わったと分かっても、よかった瞬間まで冷え切るわけではない。歌の中の冬は、その温度差を浮かび上がらせる。今はそばにいない人と、まだ近くに感じられる記憶が、同じ時間の中に残っている。
2022年1月26日にリリースされたこのシングルは、みゆが作詞・作曲し、mayukoが編曲とプロデュースを担当した。ほかの歌手の曲を歌うテレビのステージからみゆを知った人には、自分の歌にどんな言葉を残す人なのかに触れる機会となる。長さは2分55秒。別れの後の不在と、一緒に過ごした日々の感覚が交差し、忘れるべきだという判断に気持ちが追いつかない時間を描く。
かのうみゆ「二人の世界」
ひとりになっても、題名は「二人の世界」
題名は二人を指しているのに、物語の始まりに相手はいない。このずれが曲を読む出発点になる。「世界」は壮大な場所よりも、互いに慣れ親しんだ暮らしの範囲を表す言葉として近づいてくる。会う時間、一緒に過ごす一日、相手がいることを前提に描いた明日が、その中にある。人が去っても、その生活の輪郭は簡単には消えない。ひとりになった語り手が二人の時間を思い返す理由も、そこにある。
だからこそ、歌詞の中の時点を分けて読むことが大切だ。相手に気持ちが向かいきっていた頃の回想と、別れを受け止める現在が交互に現れる。二人だけで十分だった時間をたどれば、恋がつくった親密さが見えてくる。その近さが鮮やかなほど、今の不在も大きくなる。この曲の寂しさは、初めから孤立していた人の孤独よりも、一緒にいた感覚をまだ消せない人の空白に近い。
冬の景色の中で、冷めない記憶
雪と冷たい風のある景色が、別れた後の時間を感覚として捉える。寒さは、悲しい歌を飾る背景だけにとどまらない。同じ季節を過ごしていても、一緒に時間を過ごす相手はいない。その事実が風景に重なる。かつて二人で共有していた世界と、今ひとりで向き合う外の季節の間に隔たりが生まれる。冬というなじみのあるイメージが、この歌では関係の空いた場所を測る感覚になる。
けれども記憶の時間は、その寒さと同じ方向には動かない。よかった日常が温かく残っているからだ。別れを認めることと、相手を嫌いになることが一致しない。その点が痛い。過ごした時間を否定できれば整理しやすくなるかもしれないが、語り手はその時間を嘘にはできない。現在の冷たさと記憶の温かさが同時にあり、別れは一度の出来事の後にも繰り返し受け止めるものとなる。
何でもなかった一日が、長く残る
炭酸の抜けたコーラのような何気ない飲み物は、二人だけの世界を手で触れられる大きさにする。大切なのは、その物が元々どれほど特別だったかではない。誰かと一緒だったことで、普通の物の意味が変わったということだ。恋を大きな約束や劇的な場面だけで語らないから、別れの後に残る感情も具体的な日常の場所へ戻る。特別な記念日より、何気なく過ぎた一日が長く心に引っかかることがある。
こうしたささやかさが、語り手の気持ちに説得力を与える。戻りたいのは抽象的な幸福のすべてというより、その人と一緒にいることで成り立っていた普通の一日だ。関係が終わった理由を並べたり、どちらに非があるかを判定したりする説明は前に出ない。よかった日々をまだ好きだという感覚が残る。この歌に耳を傾けたくなるのも、その正直さゆえだ。終わったという事実だけで、心の中のよい時間まで終わらせることはできない。
自分の歌をつくる、みゆに出会う
MVの制作クレジットには、曲を書いたみゆとともに、mayukoのキーボードとリズム・プログラミング、OKP-STARのベースとギターが記されている。mayukoは編曲とプロデュースも担当した。歌い手の名前だけで紹介されがちなシングルの中に、言葉と旋律を書いた人と、それを音源として形にした協働者たちの役割が並んでいる。「二人の世界」は、みゆを歌う人として知るとともに、恋のどの瞬間を選んで歌にする人なのかを知る入り口でもある。
この曲は、別れをきれいに整理した後よりも、まだ整理できない気持ちの近くに残る。もう一度普通の日を一緒に過ごしたいという願いには、過去を忘れられない思いと、その頃の幸せを守りたい気持ちが重なる。相手がいない現実は変わらなくても、記憶まですぐに冷たくはならない。2分55秒の後にも残るのは、その不一致だ。恋は終わったのに、一緒にいた日々の温度はまだ下がっていない。





